中国とヨーロッパが急速に自動車の電動化を進める宣言を行い、実際にその動きは明確に進んでいる。広大な敷地を誇り移動距離が長いアメリカでさえ、西海岸や東海岸をはじめとした都市部ではEVの普及や注目度が高まっている。
そんな流れと時を同じくするように化石燃料で走る従来型の自動車、特にヴィンテージカーやクラシックカー、そしてスーパースポーツカーの人気が高まっているのも事実。ここ数年、欧米のヴィンテージカー相場は世界中で高騰している。それは戦前のブガッティやロールスロイス、ベントレーなどのヴィンテージカーだけにとどまらず、70年代のナローポルシェやその後の空冷ポルシェなど、何万台も生産されたようなモデルまで軒並み高騰しているのだ。さらに言えば、今まで特殊な競技車のホモロゲーションモデルなど一部の限られたモデル程度しか価値がないと考えられていた80~90年代のヤングタイマー(ネオクラシック)車まで値上がりしているのだ。
ただ、こうしたクラシックカー相場の高騰は、冒頭に話をしたEVシフトの反動だと決めつけることはできない。世界経済の中で増加する富裕層が投資の対象として、金融資産よりも確実と捉え投機の対象としていることなど、さまざまな事柄が絡み合っているからだ。とはいえ、EVシフトの反動という要素もあるはずで、富裕層ではEVとクラシックカー、またはスーパースポーツカーの複数台所有というライフスタイルが現実になっている。例えば、アメリカ・サンフランシスコ郊外で毎年8月に開催されているクラシックカーの祭典「モントレー・カーウィーク」では、クラシックカーのオークション相場が高騰する一方、コンクールデレガンスなどの会場に、最新のEVスーパーカーが展示され、多くの富裕層からの注目を集めているのだ。
さて、ここからが本題。この「モントレー・カーウィーク」、クルマ好きなら一度は耳にしたことがあるかもしれないが、その実態や詳細はあまり知られていないのではないだろうか。というのも「モントレー・カーウィーク」という名称の大きなカーショーが開催されるわけではいから。「モントレー・カーウィーク」のモントレーとは、サンフランシコから南にクルマで2時間ほど走った風光明媚なモントレー半島(湾)のことで、この地区には、ペブルビーチなどの名門ゴルフコースや高級リゾートホテル、そしてラグナセカ・サーキットなどが点在している。
そして、このモントレー半島の各所、例えば名門ゴルフコースのペブルビーチ・ゴルフリンクスでは18番ホールにクラシックカーを並べて「コンクール・デレガンス」が開催され、クウェイル・ロッジ&ゴルフコースでは、「クウェイル・モータースポーツ・ギャザリング」というカーショーが開催される。さらに付近のホテルでは、RMサザビーズやグッディング&カンパニーのオークションが開催され、週末を通して、ラグナセカでは「モントレー・モータースポーツリユニオン」と題したクラシックカーレースイベントが開催されるといった具合なのだ。その上、ローライダーやホットロッド系、新旧イタリアンスーパーカー&ヴィンテージカーのイベントなど、大小さまざまなイベントが、これらの中心的なイベントに合わせて、モントレーの各地で開催される。まさに、街(というにはかなり広いエリアだが)中がクラシックカーを中心に、さまざまなイベントが集中的に開催される1週間となる。それが「モントレー・カーウィーク」というわけなのだ。
ちなみに、「クウェイル・モータースポーツ・ギャザリング」や「ペブルビーチ・コンクールデレガンス」などのイベントは、入場者制限が設けられていて、入場チケットも高額で限定的に販売されているにとどまる。その代わり、会場内での飲食は無料で、さまざまな国の料理が、各メーカーのブースで振舞われる。そう、ここには、ベントレーやロールスローイス、ランボルギーニ、ジャガー、メルセデス、アウディ、インフィニティ、レクサスなどのカーメーカーに加えて、新興のEVメーカーがこぞってブースを出展し、限られた富裕層に向けて、新型車のワールドプレミアを行うのだ。自動車メーカー、特に高級車やスポーツカーメーカーは、大規模なモーターショーよりも、むしろこうした特別感のあるイベントを重視する方向に傾きつつあり、ますますこうしたクラシックカーと、そのイベントの注目度が上がっているのだ。
そんな今年のモントレー・カーウィークの一つのハイライトが日本車だったことを最後に記しておきたい。ラグナセカのモータースポーツ・リユニオンには、当時、アメリカのSCCAトランザムレースで2年連続のチャンピオンとなったダットサン510(ブルーバード)や240Z(フェアレディZ)が多数参加。その参加車両が「クウェイル・モータースポーツ・ギャザリング」の会場までパレードランを行い、会場にゲスト展示された。さらに、同イベントには、日本から、トヨタ2000GTのオープンカー(当時の007ボンドカー)と童夢零、日産R382の3台が特別展示され、多くの話題を集めた。一方、ペブルビーチでは、インフィニティプレゼンツによる33台の日本旧車展が模様をされ、来場者の注目を浴びていた。目の肥えた世界のクラシックカー愛好家やコレクターが、日本旧車に注目し始めたのは数年前のことだが、それ以来、欧米での日本旧車の価値は確実に上昇。アメリカでは、ハコスカ(HAKOSUKA)やケンメリ(KENMERI)という呼び名が普通に通用するし、R32スカイラインGT-Rの国内相場が跳ね上がったのは、アメリカの影響だとも言われている。日本旧車が高く評価されるのは誇らしいことではあるが、気軽に楽しめていた年代のクルマまで値上がりしてしまい、国産旧車までが手の届かないところに行ってしまいそうだ。加熱し過ぎれば、その終焉は早くに訪れるというのも自明の理。風光明媚なモントレーの地で注目を浴びる日本旧車を目の当たりにしながら、誇らしくもちょっと寂しい気になった2018年の夏だった。