3年前、人生で初めて車を買うと決意した僕は、はじめての相手は「ランドクルーザーさん」にすると決め込んでいた。
車を買うと決めた男のそれは、猫が「ちゃおちゅーる」を貪るかの如く、何かに囚われたように、日夜、あらゆる年式の、あらゆる色合いのランクルを画像検索する日々を送っていた。
クラシックな雰囲気をしっかり纏った60年代のものにするか、未だに現役感漂う80年代のものにするか、その中間に位置するような70年代のものにするか…いずれにせよ、四角い大きなボディに丸い目が付いた、多少の傷も勲章になる、そんなワイルドなランクルに乗って、仲間達とキャンプに出かけることを夢見ていた。
しかし、某有名中古車チェーン店に下見に出かけた僕は、冷や水を浴びせられることとなる。
その予算が、想定以上のものだったのだ。
結局、懐事情を鑑みると、ランドクルーザーさんと今の僕では釣り合わない。
駐車場だって大きなものを用意しなければならない。
肩を落としていた矢先、走行距離10万キロを上回る、VOLVOの「エステートさん」と目が合った。
本来欲しかった車と違う…機が熟すまで(金が貯まるまで)待つべきか否か…。
それでも、とにかく車熱が高まった僕は、意を決した。
「明日、エステートさんに告白しよう(車を買いに行こう)」
そうと決まると、妙なアドレナリンが込み上げ、VOLVOの動画をYouTubeで探しては、砂漠を走行しているイメージを沸かせた。
そんな謎の高揚感に包まれていると、俳優の岡田義徳さんより連絡があり、お茶をすることになった。連ドラの現場でご一緒させてもらい、ご近所さんであることがわかり、連絡先を交換していたのだ。
会うなり、僕は岡田さんに、一連の事情を矢継ぎ早に告げた。
なんとなく、岡田さんは、車のことや男の趣味を理解してくれそうな気がした。
そして、岡田さんはこう言った。
「今、知人から試運転で預かっている車があるけど、乗ってみる?」
岡田さんは、ランドクルーザーさんにフラれ、エステートさんと付き合う決意をした僕に、なんと新たな子を紹介しようというのだ。
目から鱗だった。しかし、これも何かの縁だと思わざるを得なかった。
気付いたら、僕はメルセデス・ベンツ「190Eさん」に乗り、岡田さんと246を走っていた。
加速する時の癖はあるが、僕はこいつが気に入り、買うことを決意した。
そして、この車を売ってくれた人こそが、エスアンドカンパニーの社長、鹿田さんである。
鹿田さんは「でんがな、まんがな」と得意の関西弁を操り、人の心を盛り上げるのが得意だ。
今では、鹿田さんもご近所さんということもあって、5本の指には入る頻度の飲み友達となった。
そして、車関係の困り事があったときは、すぐに鹿田さんに電話をするようにしている。
ドラマの撮影で劇中のキッチンカーが必要な時にもすぐに鹿田さんに電話した。
映画の撮影で劇中のカッコいい車が必要な時にもすぐに鹿田さんに電話した。
映画の撮影で整備場のロケ地が必要な時にもすぐに鹿田さんに電話した。
とにかく、鹿田さんにはお世話になりっぱなしだ。
人は生きていれば、思いがけない脇道に逸れることや、当然、一番欲しかったものが手に入らないこともある。
それでも、一つの選択には、何かしらの結果が伴う。
その結果が、思いがけない縁と縁を結び、人生は豊かになる。
僕はこいつと、新たな縁を探しに、まだまだ旅を続けようと思う。